12.10.03

セミナー編 退院支援「生活を支える医療につなぐ」のレポート

ものがたり在宅塾 セミナー編/退院支援 2012/08/11 となみ散居村ミュージアム

 

「生活を支える医療につなぐ」
~在宅療養移行看護マネジメントを見える化(体系化)しよう~

 

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宇都宮 宏子氏
(在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス代表)

 

 患者は自分の病気や病態が今後どうなるのかを心配している。医師は容態がどう変化し、それに対して医療ができること・できないことを説明しなければならない。患者が医療の限界を理解したうえで、残された時間を誰とどう暮らしたいのかを選択できるとよい。そうすると、多くの患者が在宅での療養を希望する。これを可能にするには入院医療から在宅療養へとバトンをわたすためのマネジメントが必要だ。

■患者が家に帰るためナース
退院支援は「病気・障害・老いをもってどう生きるかを支える看護だ」。家に帰りたいと思っているがん患者の希望をかなえてあげたい。痛みをコントロールして家やホスピスへ移ることは可能だ。すでに治療ができない状態であることを説明したうえで、患者と家族の想いを確認し、療養する場所を自ら選択してもらうことができる。

医師が退院は無理だと言うと、患者も家族もあきらめざるをえない。また、在宅療養を希望する患者がいたとしても、看護師は何をやってよいのか分からないのが現状だ。
退院調整看護師は“患者が家に帰るためナース”。退院調整部署で働くうえで、在宅看護の経験があるかどうかの差は大きい。患者の家での生活を思い浮かべながら、在宅療養の環境をクリエーティブするのが役目だからだ。急性期の経験しかない人には訪問看護などの現場をぜひみてほしい。
 

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 患者には家に戻りたい理由や目的がある。それは「孫が見舞いにきやすい地元に帰る」「旦那にみそ汁の作り方を教えたい」などさまざま。治療の施しようがなくなって残された時間が短くなってからでは遅い。家族はあきらめ切れなくても、患者は自身の状況を分かっていて長くはない余生をどう過ごしたいか考えている。その希望をかなえてあげたい。

患者は病気と戦っている半面で弱い部分をもっている。それを聞いてあげながら、余生をどう生きたいと考えているのか、語りを引き出す存在でありたい。現場のナースこそが患者の相談にのり本当の気持ちを知ることができる。

■在宅医や訪問看護へつなぐ
病院での治療から在宅での生活へ。闘う医療から支える医療へ。退院調整看護師は、病院から在宅医や訪問看護へつなぐ役割を果たす。
地域医療へバトンタッチするために「退院支援計画」を作成する。どんなサポートがあれば家に帰ることができるのかを明確にする。症状は今後どうなるのか。そして、どんな対応が必要になるのか。
まずは家に戻り、様子をみてプランニングすればよい。病院ですべてをやろうとしては時間がかかり過ぎて患者が亡くなってしまう恐れがある。在宅酸素療法の手配/かかりつけ医、訪問看護へのバトンタッチ/ベッドの有無や離床状況の把握/トイレをどうするか/保清・入浴の手段/家事支援の必要性などが検討点。

■退院支援と退院調整
患者の意思決定をサポートするのが「退院支援」。外来や病棟から対応が始まる。そして、退院を決めた患者の希望を実現するため地域医療や福祉サービスとの調整を行うのが「退院調整」。専門部署を置く病院は増えている。効果的に、適時に、公平に、暮らしの場へと移行するケアを提供しなければならない。システム化の必要性がある。
外来で対応している段階からのインフォームドコンセントが肝心。入院、退院を見据えて、しっかり患者と向き合う。急性期の患者が入院するためにベッドをまわしていくのは大事な仕事。一連の流れをつくっていきたい。

●退院支援
▽第1段階:スクリーニング
退院支援の必要性を予測する。情報の聞き取りが患者、家族への退院への動機づけになるようにする。患者に関わってきたケアマネジャーやかかりつけ医からの情報を生かしたい。

▽第2段階:在宅に向けたサポート
退院に向けて問題点があると判断された患者へのチームアプローチを早期に開始。医師、看護師に、退院調整ナース、ソーシャルワーカーが加わりカンファレンスを実施して総合評価を行う。在宅療養の方法を考える、生活状況をイメージしてリハビリを工夫するなど。在宅への移行に何らからの制度利用やサポートが必要な場合は第3段階へ。

 

●退院調整
▽第3段階:退院調整
患者が自己決定した療養方法を可能にするために人的・物的・経済的な環境を整える。どのようなサポートがあれば可能なのか。ケアマネと退院調整部門の効果的な役割分担が必要。

 

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■退院支援カンファレンスが重要

入院早期に「退院支援カンファレンス」を実施したい。医師、看護師、緩和ケアチーム、退院調整看護師、医療ソーシャルワーカー、家族=キーパーソンが情報を共有する。カルテを見て病状を把握している看護師がタイムキーパーを務める。
カンファレンスでの検討点は、退院後も継続する医療管理・医療処置は何か/退院時に目指す状態は(例:トイレに行けるようになる)など。退院時目標を共有し、それまでに誰が、何を行うのかを確認する。
カンファレンスが機能すると退院への出口がみえてくる。

 

■在宅移行と看取りのマネジメント必要
医療が病院内だけのものではなく地域に出ていかなければならない。治療の最優先から、患者が病気とともに生きる時代を目指さなければならない。
入院から在宅への移行期と看取りについて看護のマネジメントが必要だ。体系化、標準化することで質を保障しなければいけないと考える。京都の看護協会では退院支援のガイドを作成した。ケアマネら介護職を交えての研修も行っている。
現在、死亡者の8割は医療機関で亡くなっている。以前は自宅で亡くなるのが当たり前だったのが昭和51年に両者の数が入れ替わった。団塊世代の高齢化によって迎える多くの死をすべて病院で支えていけるのか疑問だ。看取りの役割をどこが果たしていくのか、考えていかなければならない。

 

■医療をサポートする地域づくりを
今後、かかりつけ医・在宅医、訪問看護ステーションの重要性が高まる。地域が在宅医療をコーディネートできるようにする。一方で、在宅医療を補完しサポートする病院が必要だ。容態の変化に応じて入院できる在宅支援病棟なども検討すべき。

 

◆質疑
Q:家に帰りたい患者ならば手助けできるが、退院が可能なのに帰りたくないという人もいる。急性期病院への依存も問題だと感じている。
A:医療を受けたら自宅に帰るものだと患者の意識を変えなければいけない。急性期病院の役割をはじめ住民に知らせなければならないことは多い。時間はかかるだろうが、病院として目指しているところを市民セミナーなどを通じてアピールしたい。通常業務と並行してやっていくしかない。病気や老化は避けことができないのに、ほとんどの人は自分に問題が振りかかってきてからはじめて考え始める。シェアハウスを建てようと動き出す人もいるようだが、そのように地域で工夫する余地はある。
(佐藤氏)多くの人は在宅医療のことをほとんど知らない。家で死ぬと警察が来ると誤解している人がいるほどだ。人生の最期をどうするのか。地域の人と考えなければいけない。

Q:患者と介護する家族との関係性についてどう関わるのがよいか。
A:家族に期待する時代ではないと思う。家族がいないほうが患者の意思を尊重しやすいという側面もあるぐらいだ。介護の分野で家族の変容に期待する流れがあるのには違和感がある。家族が変わるとすれば、そのきっかけは患者の表情や言葉。わたしは患者と話す時に家族に立ち会ってもらうようにしている。患者の本当の気持ちに家族が気づくことがある。以前から患者と関わってきたケアマネジャーに尋ねてみるとよい。病院ではみえなかった患者の姿がみえてくる時もある。

◇講師プロフィール
大阪、函館、高松の医療機関で看護師として勤務。高松の病院で訪問看護を経験して在宅ケアの世界へ。平成5年、京都の訪問看護ステーションで勤務。介護保険制度創設時、ケアマネジャー・在宅サービスの管理・指導の立場で働く。病院から在宅に向けた専門的な介入の必要性を感じ、平成14年7月から京都大学病院で「退院調整看護師」として活動。平成24年4月から「在宅ケア移行支援研究所」を立ち上げ、医療機関の「在宅移行支援」、地域の「在宅医療コーディネーター」事業のコンサルテーションを行う。