12.10.15

多職種連携編「在宅に必要な知識」のレポート

ものがたり在宅塾 多職種連携編 第1回 2012/08/27 砺波市文化会館

 

「在宅に必要な知識 ―医学的知識から制度まで―」
佐藤 伸彦氏(医療法人社団ナラティブホーム理事長)

 

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 厚生労働省から在宅医療連携拠点に指定された。現場のみなさんとの話し合いの中から問題点をみつけて提言していきたいと思う。

■介護サービス中の処置はケアマネが指示
Q:デイサービス中の点滴などの処置について。
A:点滴を静脈注射する場合の薬剤は医療保険の請求ルールでは薬剤単独では請求できず、手技料とセットで請求しなければならない。このためデイケアなどで点滴の処置がなされた場合、医療側にお金が入らない。これが原則であることは知っていてほしい。
しかし処置自体は行えるし、実際にみなさんも行っていると思う。誰の指示を受けて行うかという点でみなさんは混乱することが多いだろう。デイサービスは介護保険のケアプランの中で行われているので、例えば褥瘡の処置をする場合などでもケアマネージャーが「医師からこういう指示がある」と伝えて処置を指示する。
介護保険法第7条11項が定めるように、介護の中で診療補助行為をするには主治医の指示を得る必要がある。ここまではみなさんも知っている。このため主治医に直接問い合わせることが多い。しかし原則は介護保険の中でお金をもらっているので、ケアマネが主治医からの情報をサービス提供者に伝え「居宅療養管理指導・情報提供料」を得る。医師からの指示はケアマネに尋ねるのが原則ということだ。
サービス担当者会議の際に情報交換しておけば済む。指示を文書にしなければいけないという決まりはない。摘便などもそう。いちいち指示をあおぐのは煩雑であり、担当者会議の際にケアマネから主治医の指示を聞いておけばよい。

Q:デイサービス中に体調不良になったら往診はしてもらえるのか?
A:デイサービス中の往診はできない。介護保険と医療保険がだぶってしまうからだ。診てもらうならその時点でデイサービスを中止しなければならない。そうなると送迎の料金がとれなくなるなど施設側に不都合がでる。家族を呼び自宅に戻るか病院に行くケースが多いと思う。利用者側からは面倒がられると思うが決まりなので。家族が不在の場合は、その時点でデイサービスを中止して往診を頼むしかない。みなさんが病院に連れていくと、途中で事故に遭ったらどうするかなど検討しなければいけない点がでてくる。施設ごとで考えてほしい。小規模多機能は宿泊する場合は在宅と同じ扱いになり、往診は可能。ショートステイは配置医師がいる施設なので、その医師に連絡をとって診てもらうのが原則だ。

■地域で共有したい医療データ
Q:介護サービス利用時の診断書について。
A:デイサービス利用時の診断書の仕様は施設によって少しずつ違う。書かされる医師の立場から言わせてもらうと、それぞれの診断を保険でやるか保険外でやるか悩む。感染症などは診断が通らないケースがある。総合病院ですべてを検査していることは多いのに、そのような情報があちこちに散らばっている。再び検査を行うと手間とお金が無駄になる。
施設ごとに知りたい情報が異なるので診断書の統一は難しいが、ある程度のデータはどこかに必ずある。今回の連携拠点事業でそれらの情報をまとめる方法がないか考えており、ソフトの制作も始めている。エクセルにまとめた情報から各施設が必要な情報を抜き出せるようなものを考えている。携帯端末で情報のやりとりができたらよい。薬の場合は国がデジタル手帳のソフトをつくり試験運用が始まる。

Q:発熱時の入浴はどうすればよいのか?
A:熱があるから入れてはいけないという医学的な根拠はない。看護師が経験や勘から判断すればよい。医者に尋ねられても困ってしまう。

 

■医師の理解と連携がかぎ
Q:在宅医療に対し、急性期病院の医師ができることは何か?
A:急性期の医師とかかりつけ医が患者について話をしておくのは大事。ケアマネが双方の間に入って調整することは困難だろう。急性期の医師が在宅医療の現場を思い浮かべることは難しい。病院の医師が、在宅療養は無理だと決めつけるとその患者が家に戻ることは不可能。こういうことまで在宅でできることを急性期の医師にも知ってもらい、じゃあ家に帰してもよいかと思ってもらえるようにしたい。急性期の医師と在宅医の交流が必要だ。ケアマネだけの力では多くの医療処置が必要な患者は家に戻れない。医師同士が最初にきちんと話をして連携できれば、あとはケアマネが入ってくれる。
わたしが総合病院から患者を引き受ける場合は、退院カンファレンスで病院の医師と話をし、「なにかあればお願いします」「その時は連れてきてください」と言える協力関係をつくるようにしている。容態が変わって総合病院に行く場合は当直医に電話するようにもしている。
在宅療養の患者に対して呼吸器も使用しているし、胃ろう、腎ろう、腸ろうなど管類の交換もしている。カートで腹水を抜きもする。緩和ケアの疼痛コントロールもできる。病院の医師と在宅医とで在宅医療でやれるとの見通しが立てばあとはケアマネに任せられる。かなり重症でも家で最期を迎えたいという患者は引き受ける。

生活を支えるプロは医師ではなく、今回来場している介護や看護に携わっているみなさん。医療的なところをしっかり押さえることができれば、みなさんの支えで在宅医療は成り立つと思う。みなさんは医師同士をつなぐのがもっとも難しいと思っているだろう。そこをうまくやらなければいけないと思う。
開業医は1日30、40人の患者をみている。ケアマネから電話がかかってきても余裕がなくて丁寧に答えられないことがある。一度しっかり話し、その後はメールなどITも活用するのも方法だと思う。顔の知らない者同士だと誤解を生みやすいというネックはある。

Q:高い介護料を使ってタクシーで病院に通っている人もいる。普段、どのような人を診ているのか。
A:受診が難しい人をみている。足の不自由な人、移動手段のない人は多い。疾患のない人はいなくて、重症の人が多い。往診料は1人分しか出ないが、夫婦をまとめて診ることもある。普段の療養生活を知っていなければ容態の変化をどう判断してどう対応すればよいかは分からない。

Q:訪問看護の指示書を複数の医師からもらうことはできるか。
A:もらうことはできるが、書くのは無料ではない。お金を申請できるのは一箇所なのでどちらがもらうのかという問題があり、書いてくれるかは分からない。それだけ指示書を書いた医師には責任があるということだ。今の訪問看護指示書は使いづらい。かかりつけ医がほかの医師からの指示も受けて書くというのがよいと思う。
薬も総合病院では各科ごとに出さねばならない。5つの科からもらっていた薬を在宅医のこちらでまとめたことがある。そうすると1つの袋になるので患者の飲み忘れがなくなる。

■往診と訪問診療

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 往診は患者や家族から呼ばれて診療すること。訪問診療は計画的に訪問して診療すること。日ごろから健康を管理するという意味で訪問診療のほうが医療費は高く設定されている。
高齢者率がピークになる2025年には、現在の一般病床は集中治療を行う「高度急性期」、肺炎や腹痛などを扱う「一般急性期」、それに次ぐ「亜急性期」に分けられる見通し。「亜急性期」は、ある程度の医療が必要な退院患者や入院が必要になった在宅療養者の受け皿を想定している。
日本の医療保険は国内どこのどの病院にもフリーでアクセスでき、3割負担で受診することができる。コンビニ受診で医師が疲弊するのは弊害だが…。英国は日本と同じく医療保険を国家管理しているがまずは主治医にかからなければならない。米国は完全な自由市場。医療は高くつくので、安いアスピリンで痛みを抑えて病院に行かない者も多い。
高額医療と高額介護の合算が上限を超える場合に自己負担額を抑える制度がある。知らない人には教えてあげてほしい。行政から積極的に教えてはくれないので制度は知っておいてほしい。

 

■高齢化のピークはこれから
砺波市の人口(49452人)のうち65歳以上は11888人で24.0%を占める(平成23年4月)。平成22年10月で全国平均は23.1%、富山県は26.0%。もう10年もすれば現在60-64歳の団塊の世代が高齢者の仲間入りをして高齢者率はさらに高まる。市内の23年の死者は481人だったが、多死社会を迎え、病院に通うのが難しい人も増える。
高齢者率がピークを迎える5年、10年後の地域を支えるにはわたしたち医師とみなさんが協力してやっていかなければならない。介護施設をはじめ地域の資産をどう生かして乗り切っていくのかが大きな問題。これからの講義がひとつのきっかけになればよい。