12.10.16

多職種連携編「整形疾患」についてのレポート

ものがたり在宅塾 多職種連携編 第2回 2012/09/24 砺波市文化会館

 

「整形疾患」について
山田 泰士医師(市立砺波総合病院 整形外科)

 

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■転ぶと寝たりきりかも/
大腿骨頚部骨折について

 お年寄りは股関節を骨折しやすい。大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折があり、関節の内側で折れるのが大腿部頚部骨折、外側で折れるのが大腿骨転子部骨折だ。大腿骨頚部内側骨折と大腿骨頚部外側骨折とも呼ぶ。
広義ではどちらも「大腿骨頚部骨折」だが、どちらの骨折かによって治療における接合方法が異なる。内側骨折は程度が軽ければ接合術、完全に折れたりずれたりしていると人工骨頭置換術を用いる。骨がくっつかなかったり、大腿骨頭壊死症になったりする恐れはある。再手術はお年寄りへの負担が大きく、人工骨頭にしてしまったほうがよいケースもあるので判断が必要になる。
手術方法には骨頭につなぐレバーアームを大腿骨の外側からプレート型の金属で支える方法(DHS)と、骨に埋め込んだ金属で支える方法(IMHS)がある。比較するとどちらにも弱点があるので、わたしは使い分けている。
レントゲン写真だけでは大腿骨頚部骨折の約2%、同転子部骨折の約3%は発見できない。MRIでの確認が必要だ。見逃してしまうと次は大きく折れてしまう。骨粗鬆症だといつ折れたのか分からないこともあり、患者の痛がり方で骨折の可能性を判断しなければならない。残念ながら大腿骨頚部/転子部骨折の1年後の死亡率は2割。骨が折れると体が弱ってしまうのは避けられない。
 

■転ばぬ先のつえ/骨粗鬆症とロコモを予防しよう
寝たきりになる原因としては大きく3つ挙げられる。脳出血や脳こうそくといった脳の病気、心臓病や呼吸器疾患、がんなど内臓の病気、そして骨折をはじめとする骨・筋の病気だ。
骨折の原因になる転倒は、加齢や病気、薬の副作用など内的要因(身体的要因)と住環境など外的要因(環境要因)がある。いくつかの要因が重なると転倒しやすい。ショートステイで転ぶ人が多いように感じるが環境変化のストレスが原因のひとつかもしれない。
転倒を経験すると怖さから活動量が少なくなり、さらに身体機能が低下するという悪循環に陥りやすい。家族も歩かせないようにするからだ。
お年寄りが骨折しやすい部位は大腿骨頚部骨折が起こる股関節や腰椎圧迫骨折や胸椎圧迫骨折が起こる背骨。そして手首、肩。骨粗鬆症になると骨密度が低下して強度が落ち、ちょっと転んだだけで寝たきりにつながるような骨折をしてしまう。骨粗鬆症は検査で発見でき治療薬もある。
骨を強くするには、カルシウムを補給する/適度な日光浴でビタミンDを活性化する/適度の運動をするのがよい。毎日、コツコツ(骨骨)がんばる必要がある。カルシウム補給には乳製品や納豆がよい。サプリメントを使うよりも自然の食べ物で摂ったほうが体への吸収率は高い。運動が大事なのは骨をはじめ身体は負荷をかけることによって強くなるからだ。
 

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 高齢者が転倒しやすいのは筋力やバランス能力が低下するから。日ごろのトレーニングによって少しでも抑えたい。
運動器の障害によって要介護や要介護になる恐れのある状態を「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群または運動器不安定症/通称・ロコモ)と呼ぶ。「一人で歩けなくなるかもしれない症候群」だとわたしは説明している。整形外科学会では、ロコモをメタボのように言葉として浸透させ予防につなげたいと考えている。体の痛みや関節が曲がりにくい、筋力やバランス力の低下などはロコモの徴候。目を開けての片足立ちや、ゆっくりしたスクワットをはじめ毎日のトレーニングや運動で予防したい。
 

 

■健康は病気と元気の素敵な関係
 健康ってなんだろう。広辞苑には「体に悪いところがなく心身が健やかであること」とある。心身というのがポイント。病気がなくても健康ではない人がたくさんいる。体に異常があればなんとかするが医師としてもどかしいところだ。わたしは病気があることがイコール不健康だとは思わない。元気がないことが不健康。「健康は病気と元気の素敵な関係」(自治医大・石川雄一氏)なのです。

◆質疑
Q:若くてもロコモの徴候を感じる人はいると思う。予防について。
A:このままではまずいなと思って、運動を心掛けるなど何らかのモーションを起こすことが大事だと思う。何かに頼りたくて健康食品にはしるなど選択肢を間違えないようにしてほしい。


Q:訪問看護などで患者が転倒して股関節が痛いと訴えていた場合、病院に行く必要があるか見極めるポイントはあるか。
A:骨折じゃなかったら医師に嫌がられると心配する人が少なくないようだが、遠慮せず受診すればよい。歩けないほど痛いならばまず病院へ。オーバーなぐらいに捉えて対処してほしい。受診して問題が見つからなかった場合でも、痛みが続くなら遠慮なく再受診すればよい。レントゲン写真だけでは分からない骨折もあるので。
大腿骨頚部骨折には見極めかたがある。ひざを曲げた状態でねじってみて足のつけ根に痛みを感じたり、ひざを叩いてみて足のつけねに響いたりすると骨折かもしれない。

 

Q:グルコサミンやコンドロイチンを含むサプリメントに効果はあるのか。
A:飲むのは構わないが、医学的な効果はない。

 

Q:施設側は利用者の転倒に対してナーバスになっている。
A:病院内での転倒は病院側に責任があるとの判例もあり、リスクを避けるために歩行を抑制する方向にある。確かに転倒によって病気が悪化するケースはある。だが、歩行抑制が本当に患者のためになるのかは疑問。残念だがそうせざるを得ないのが現状で解決策はない。本当に患者のためなのか、病院のためではないのか。抑制する理由すら認識せずに行われていることも問題だと思う。

 

Q:大腿骨頚部骨折などで手術をするかどうかの基準はあるのか。
A:内科的にみて手術を乗り切れるかどうかで判断する。患者が認知症で自己決定が難しいならば家族と相談するのだが、本来は家族が決めるのはおかしい。寝たきりになると介護にも困るので手術する場合が、家族には患者本人が元気だったらどうするかを考えてみてほしいと伝えるようにしている。
 

Q:背骨の圧迫骨折の手術について。
A:麻痺の症状があるなら手術をする。骨折してしばらくすると痛みは治まるが、最近では折れた背骨にセメントを注入して固める手術が積極的に行われている。そこまでするかどうかは医師によって考えの違いはある。骨折は連鎖するので手術ばかりでなく、再発予防も治療のひとつとして大事だと思う。

 

Q:砺波市総合病院など急性期の病院では早期退院が求められていると思うが、大腿骨頚部骨折などで手術をすると入院が長引くことが多い。退院支援に向けての合同カンファレンスなどはいつから開始しているのか
A:入院した時から開始する。手術によって生活レベルが下がり、退院後に在宅療養になるか、別の施設に移るかの判断が求められる。症状だけではなく、社会的な環境や患者、家族の想いも異なる。歩けるようになっても環境が整わないために帰宅できない人もいる。
大腿骨頚部骨折の手術と治療は4週間での退院を計画するが、実現できるのは約3割。7割は入院が2カ月以上にわたる。だが最長でも3カ月で退院しなければならない。それぞれの患者を特別扱いせず回復が止まったら次のことを考えてあげなければ。そのための準備は入院時から始まっている。
(佐藤氏)病院側が患者の在宅療養のイメージがつかめず、生活が難しい状態で退院させるケースが多くて問題になっている。宇都宮さんの講演のテーマでもあったが、退院支援ナースがケアマネジャーらとうまく連携し、病院から在宅療養へとスムーズに移行できるようにしなければいけない。クリティカルパスに沿って進めようとしても、パスでは対応し切れないことは多い。