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多職種連携編「胃ろうの功罪」についてのレポート

ものがたり在宅塾 多職種連携編 第3回 2012/10/22 

 

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「胃ろうの功罪」について
佐藤 伸彦氏(医療法人社団ナラティブホーム理事長)

 

患者が何らかの理由で食べられなくなった場合の栄養補給方法には4つある。消化管を利用できるなら「経腸栄養」、できない場合は「静脈栄養」となる。
経腸栄養は短期なら「経鼻チューブ」、長期にわたる時には「胃ろう」「腸ろう」が望ましいとされる。静脈栄養は手の先から入れる「末梢静脈栄養」と、心臓近くから入れる「中心静脈栄養」がある。末梢静脈からは少量しか点滴できない。
以前は静脈栄養を選択するケースが大半だった。消化管を使うほうが免疫力は上がることが分かり、経腸栄養が選ばれるようになった。
 

■高齢者の胃ろうは日本特有
PEGとはそもそも「経皮内視鏡的胃ろう造設術」のことを指す。しかし、広く造設法を含む胃ろう栄養法自体を指すのにも用いられている。人工的水分・栄養補給法はAHNと呼ぶ。
PEGは1979年、米国で小児患者向けに開発された。胃カメラからの光を目印にして腹部と胃に道をつくる。10分程度でできる簡単な手術だ。胃ろうを高齢者に対して使用したのは日本だけ。開発者が思ってもみなかった方向で活用されている。
胃ろう1ccが約1kcalで約1円。1日1200円として1カ月3万円の費用がかかる。誤って管が抜けてしまうと30分も経てば通すのが難しくなる。閉じてしまわないように、何らかの管を挿入しておく必要がある。
PEGは経鼻経管栄養よりも患者の苦痛が少なく、安全、安価でもある。日本では1990年代から急激に使用が拡大した。この背景には介護保険制度の導入もある。医療保険下での薬づけの問題と同じだ。現在、療養病床に入院する患者の3分の1が経管栄養を用いていると思われる。胃ろう栄養法を用いている患者は50万人とも推計されている。
経鼻経管栄養との比較において胃ろう栄養法の利点と認識されているのは、患者の不快感や苦痛が少ない/経口食との併用ができる/看護の労力が少ない/誤嚥や胃食道逆流が少ない(実際は胃ろうで起こることも多いため粘度をつけている)/介護施設などに受け入れてもらいやすい、など。。
 

 

■海外では胃ろうよりも緩和ケア

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 PEG対象患者を3つに分類し、実施が適切かを検討すると以下のようになる。
①目的が明確な群:QOL改善のためや一時的な栄養補給法として用い、不要になれば閉じるケース。また、一部のがん、神経病など何らかの原因があって口から食べることができず必要とする患者。
②目的が価値観により異なる群:寝たきりで意思確認が難しくケースによる。
③目的が明確とはいえない群:認知症末期患者でありほとんどが高齢者である。
日本ではこの③の患者が多いのが問題となる。海外ではこのようなことは行われていない。「本人の利益よりも負担が大きくなるので施行すべきではない。できるところまで食事介護し、それができなくなったら患者は最終段階に入ったことを医療者は理解すべき」という考えだ。
オーストラリアでは政府が緩和医療ガイドラインに「死が迫った高齢者に胃ろう造設は不快である」と記している。海外では終末期にAHNを差し控えるのは緩和ケアとの位置付け。気道内分泌が減り気道閉そくのリスクが低下することや、脳内麻薬やケトン体が増加して鎮痛鎮静作用があることが理由に挙げられている。
胃ろう造設患者の平均余命は約2年。日本では胃ろうが造られ過ぎた。海外の考え方も採り入れながら患者にとっての幸せを問うべきだろう。

 

 

■胃ろうの可否。決断プロセスが大事
 冒頭でみなさんに胃ろうの功罪を話し合ってもらった。栄養や感染予防の管理が楽になるとの意見の半面、逆に大変になるとの声もある。胃ろうによって延命できる半面、本人が望んだものとは言えないという問題点がある。施設に入りやすいのか、入りにくいのか/自宅に戻りやすいのか、戻りにくいのか/家族の負担は軽くなるのか、重くなるのか/胃ろうをしながら口からも食べられるが、かえって食べなくなるとの指摘もあるなど、同じ事象が功とも罪ともとれる。
 

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 患者が高齢だと人工呼吸と同じで一旦つけると外すのは難しい。胃ろうを中止した場合、水分だけだと余命は1カ月ぐらいで徐々に衰弱してくる。中止することは可能だが、自殺ほう助に近い行為だ。日本では餓死というインパクトは大きく、胃ろうを行わない欧米のような考え方をすぐに受け入れることは難しい。
胃ろうをつくる際に患者本人の意思確認ができないケースは多い。家族が決めることがよいとは言えないが、その時にはどうすべきなのか考えておく必要はある。胃ろうをする、しないでその後どうなるかを知ったうえで判断できるようにしたい。本人にとって一番よいと思われる判断を下すプロセスを大事にしなければならない。日本老年医学会は指針を示しており、一般向けの分かりやすいガイドラインを作成中だ。