12.12.26

市民公開編「認知症の種類と対策」のレポート

ものがたり在宅塾 市民公開編 第5回 2012/11/28

 

「認知症の種類と対策」
佐藤伸彦氏(医療法人社団 ナラティブホーム理事長)

 

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 認知症とは、生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消滅して日常生活・社会生活が営めない状態をいう。後天的原因によって生じる知能の障害である点で、知的障害(精神遅滞)とは異なる。
認知症は、アルツハイマー型と、アルツハイマー型・脳血管障害混合型が7、8割を占める。混合型は脳梗塞などによる身体麻痺があると分かりやすいが、小さな脳梗塞だと影響が表にでてこないため判別しづらい。そのほかは脳血管性型とレビー小体型などがある。
人間の脳のどの部分がどんな役割を果たしているのかは解明されている。記憶の引き出しである海馬に認知症によって障害がでると新しいことを覚えられなくなる。海馬の近くにある扁桃体は感情のセンサーだが、こちらは比較的障害がでない。

 

■どこを侵されるかによって異なる症状
症状としては「失語症(うまく話せない、抽象的なことが理解できない)」、「失行症(道具を使うなど行為がうまくできない)」、「失認症(物がなにか・人が誰か分からない、道に迷いやすい)」などがある。患者本人がこれらによってストレスを感じているかどうかは分からない。
「前頭葉症候群」は怒りっぽい/料理ができなくなる/すぐに泣く/意欲がなくなる/場に合わせるのが上手/何度も同じことをする/紙やごみを集める、など。家族は性格が変わってしまったように感じるだろう。
「側頭葉症候群」は海馬が侵されて少し前のことでも忘れてしまう。多食や異食もこれにあたる。「妄想」は物を盗られたと言ったり、嫉妬したりとか本人がそう思い込んでいて説得できないもの。説得できるケースは妄想ではない。このほか「幻覚(幻視、幻聴。レビー小体型は子どもが見えていることが多い)」「睡眠障害(むずむず足症候群など)」「夜間異常行動(レム睡眠異常行動)」がある。
異常行動は対応に困る。徘徊、興奮・衝動性、不潔行為、性的異常行動、過食・異食、大声をあげる、不眠、収集癖などだが、程度にも差がある。薬も使って対応する。精神症状には記憶障害、見当識障害、幻覚、妄想、せん妄(一種の意識障害)、失語・失行・失認、情動障害、人格障害などがある。

 

■高齢者の心理を知ることから始める

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 認知症を理解するためには段階があり、(1)高齢者の心理を知る(2)認知症を正しく理解する(3)認知症疾患それぞれの症状特徴を知る(4)疾患の高次脳機能障害を知る(5)症状の各ステージにおける治療とケアを知る(6)行動・心理症状BPSDの治療とケア・増悪因子の除去へと進めていきたい。高齢になればできないことがでてくるのは当然であり、年をとることへの理解が必要。それが認知症の理解にもつながる。
高齢者になることは、なにかを「喪失」すること。体の機能(身体、感覚、脳機能)が低下し、死への恐怖をいだくなどして精神的な能力も衰える。子どもの独立や配偶者の死により家族の中での役割を失う、退職などにより社会における役割も喪失する。
高齢社会に必要なのは、年をとること自体と疾患である認知症への理解だ。その人を認めてあげる社会(家族や地域)が存在しなければならない。
認知機能の低下だけでなく、環境の変化、周囲の誤った対応などの影響は小さくない。入院などをきっかけに認知症が進むことがあるのはこのため。食事、トイレをはじめ生活のリズムを安定させることは有効だ。
認知症の診断には、質問方式の「長谷川式簡易認知評価スケール(HDS-R)」、観察方式の「初期認知症徴候観察リスト(OLD)」などが用いられている。OLDは認知症の早期発見を目的としたチェックリストであり、患者が協力的でなくても身近な人の情報で実施できる。

 

 

◆質疑
Q:認知症を予防するにはどうすればよいか。
A:頭を使うようにしたい。わたしは字を書くことを薦める。例えば新聞のコラムを書き写すとか。高齢者特有の喪失を防ぐ意味で、外に出掛けて学んだり、地域の役職を務めたりするのもよいだろう。

 

Q:認知症に対する薬の効果は。
A:認知症の薬には4種類あり、「アリセプト」が代表的なものだ。患者の脳内では神経伝達物質であるアセチルコリンが減少しており、それを増やそうとする薬だ。吐き気など副作用がでることがある。また、排尿障害やパーキンソン病に用いる抗コリン薬は、アルツハイマー型認知症を進行させる恐れがあるので注意がいる。