13.03.25

多職種連携編「リハビリテーションについて」のレポート

ものがたり在宅塾 多職種連携編 第6回 2013/1/28

 

「リハビリテーションについて」
中波 暁氏(市立砺波総合病院リハビリテーション科医長)

 

 

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 「リハビリテーション」とは、最終的に『人間らしい生活』を回復・実現すること。病院や施設で行うものだけを指すのではない。ポリオ後遺症などへの対応から始まり100年ぐらいの歴史がある。

 総合リハビリテーションは、患者・障害者の全人間的復権をめざす。医師や療法士だけではなく様々な分野の協力によって達成できる。「医学的」「教育的」「職業的」「社会的」なリハビリがある。

 国連の障害者権利条約には以下のようにリハビリテーションについての規定がある。

障害者が最大限の自立ならびに十分な身体的、精神的、社会的および職業的な能力を達成・維持し、生活のあらゆる側面での完全な包容(インクルージョン)と参加を達成・維持するための効果的で適切な処置であり…

 

 「インクリュージョン」とは、障害者を広く一般社会に受け入れ、溶け込むようにすること。健常者中心の社会に受け入れるのではなく、社会そのものが本来、多様な人々が共生する場であるとの考えから生まれた言葉だ。

 

 

■散歩や家族の介助もリハビリ

 リハビリの到達点を挙げると以下のようになる。

(1)基本原則

障害当事者中心で、その自己決定権を最大限に尊重しつつ進める

(2)目的

「本人が選択した最大限の自立」。
その下位目的は「十分な身体、精神、職業的、社会的な能力」

(3)手段

社会福祉的サービス、あらゆる必要な技術(介護など)を含む包括的なものであるべき

(4)対象

本人だけでなく家庭環境、地域社会・一般社会的な環境への働きかけも含む

(5)実施主体

専門家だけでなく、本人、家族、地域社会、行政が手を携えて行うもの

 

 家族が行う食事やトイレの介助、散歩することなどもリハビリであることを理解してもらいたい。

 

 リハビリ療法、療法士は次のように分類される。理学療法・士(PT)、作業療法・士(OT)、言語聴覚療法・言語聴覚士(ST)。呼吸理学療法・士(RT)は理学療法に含まれる。

 理学療法とは、基本的動作能力の回復を図るために体操や運動、マッサージをはじめ物理的手段を加えること。基本的動作とは寝返り、起き上り、座位、歩行、階段昇降など。訓練内容は、関節可動域訓練(ROM訓練。可動域=ROM)、筋肉増強訓練、基本動作訓練、バランス訓練など。心肺機能訓練も行う。これに特化したのが呼吸リハや心疾患リハ。

作業療法では、日常生活を構成する作業に参加できるように訓練などをする。作業への参加が制約されないように環境の改善も行う。食事や排せつ、入浴など日常生活動作(ADL)、

家事や外出などの手段的日常生活動作(IADL)、就労環境への適応など職業関連活動の訓練などがある。トイレに行けるようになるトレーニングは意外と大変なものだ。

 言語聴覚士は、音声・言語機能、聴覚に障害がある人に訓練や助言などを行う。口から喉までのリハビリを担当し、摂食嚥下リハも行う。

 

 

■医療機関は発症後早期の回復に注力

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 リハビリのこつは、少しでも出来ることや改善したことに注目してほめてあげる。変化がなければ悪くなっていないことをほめる。ほめることで取り組む人のやる気が違ってくる。

 リハビリの実施は、発症後の早い時期ほど回復がよい。身体の回復も伴うので症状がより改善する。病院でのリハビリが機能回復に成果を上げるのは、早期に、毎日必ず行うから。「継続は力なり」である。外来リハビリで回復がよい患者の多くは来院しない日に自主リハビリをしている。

 リハビリスタッフは発症後の短期間にできる限りの回復を目指す。患者は時間をかけてゆっくり回復するイメージを抱きがちで、双方の認識にずれが生じやすい。いずれ回復しない時期にぶつかるが、患者はもっとよくなるんじゃないかと思う。しかし病院や施設は、より回復する可能性の高い新しい患者のリハビリに力を入れなければならない。

リハビリでは栄養面のケアも重要になる。摂取カロリーが不足しているのにリハビリをすると、筋肉が栄養源として利用されて落ちてしまい逆効果になる。

 安静や動けない状態が続くと筋委縮・筋力低下をはじめとする機能障害や床ずれなど廃用症候群に陥ることがある。日常生活レベルで発揮する筋力は最大筋力の20-30%。20%以下の状態だと筋力は徐々に低下してしまう。日常生活を行っていれば 廃用性筋委縮を起こすことはない。ただ、筋力を増強するには30-40%の動作が必要。

 

 

■現状を維持することは素晴らしい!
地域リハビリテーションでは、住み慣れた地域社会において障害のある状態でより適した豊かな生活を営むため、「生活スタイルを再構築」する過程を支援することが主要なテーマであり、ゴールである。

 砺波市では在宅リハを行う療法士はPT1人(南砺市では訪問リハビリに10人の療法士がいる)。また、入院患者はリハビリテーション病棟で在宅生活のスタイルを再構築するが、まだ療法士は少ない。

 

 回復しなくなると維持期に入る。患者が改善を望まれても現状維持のためのリハビリ中心になる。医学的に障害がなくなることはない。リハビリを頑張ると転倒のリスクは高まる。家族の協力が必要になる。

 現状を維持して 廃用症候群を予防することに価値がある。廃用性筋委縮などへの変化は簡単に起こり、寝たきりになってしまう。廃用症候群を改善するのは難しく、陥るまでの3倍の期間を要するとされる。予防するほうが容易であり大切だ。

 加齢によって嚥下障害を抱える患者は多い。嚥下にも筋力低下が起こる。誤嚥性肺炎で入院しても、嚥下リハは退院後に行うことになる。日ごろからの予防を頭に入れておきたい。予防のための体操や訓練法がある。

 機能を現状維持できることは素晴らしい。障害があっても自分のことができるのは素晴らしい。何かをしようと取り組んだこと自体が素晴らしい。そのような理解が進めばよいと思う。周囲のみなさんが声を掛けることで、患者はリハビリを続ける元気がでる。広義のリハビリに多くのみなさんが関わってほしい。

 

 

◆質疑
Q:デイサービスなどの施設において、リハビリの手伝いなど利用者に何かしてあげられることはあるか?
A:病院の退院カンファレンスでも、どんなリハビリをしてきたかの説明はあっても家に戻って何をすればよいという指導まではないと思う。また、リハビリ方法は言葉で教えられても一度で理解するのが難しいという面もある。患者の自主リハビリに協力する家族への教育はあってもよいと考えている。情報が必要ならば、ケアマネを通じて病院や施設に尋ねてもらってもよいだろう。