「ユマニチュード」

 魔法のようなケア手法がフランスで行われているという。毎日新聞8月29日の朝刊で、大熊由紀子・国際医療福祉大大学院教授が、国境を超えるユマニチュードとレポートしている。ぜひ、紹介しておきたい。
 まるで魔法のようでした。千葉県にある特別養護老人ホーム。丸2年間、ベッドから起き上がろうとしなかった90歳の女性が、実に楽しげに、歌いながら歩き始めたのです。気位が高く職員が誘っても立腹するばかりだったその女性をわずか10分足らずで変えてしまったのは、フランス人男性のイブ・ジネストさん。ロゼット・マレスコッティさんと共に30年余かけてつくりあげたケア体系「ユマニチュード」の創始者です。
 ユマニチュードは、「ケアすることとは何か」という問いに始まる人間哲学に裏打ちされた150を超えるテクニックの集大成です。母国フランスでは、400以上の病院やケアホームで利用され、スイス、ドイツ、カナダと国境も越えています。秘密は、誰でも身につけることができるワザにあります。例えば、見つめること、話しかけ続けること。前から静かに近づき、水平な視線で見つめて自己紹介し、これから何をするかを丁寧に説明します。声は優しく、歌うように、静かに。言葉には愛と尊敬を込めます。最近、高齢者の入院が激増しています。白い壁、白衣、体に差したチューブ類を抜かないようにと施される身体拘束。高齢者は叫んだり、暴れたりしますが、それはスタッフを「暴力を振るう敵」と思い込むからです。見つめたり話しかけたりするのがおろそかだと「あなたは存在しない」と言っているのと同じで、人としての関係が生まれません。

 日本への紹介者、東京医療センター総合内科医長の本田美和子さんが「日本の患者さんにも応用できる」と確信したのは、入院中の80代の女性の変わりようを目の当たりにしたからでした。1年近く、一言も発しなかった女性に、通訳を介してジネストさんが接すると、目を開き、「手を上げてください」と言うとその通りにしたばかりか「ありがとう」と言ったのです。体験した看護師たちは「目に見えて患者さんが笑顔になるので、うれしくなります」「管を入れる必要が本当にあるのかを考えるようになりました」「つらいから辞めようと思わなくなりました」とこもごも言います。

 ぜひ、急速に普及してほしい。(K)