12.12.20

多職種連携編「脳血管障害、神経疾患について」のレポート

ものがたり在宅塾 多職種連携編 第5回 2012/12/10

 

zaitaku121210_01

「脳血管障害、神経疾患について」
佐藤伸彦氏(医療法人社団 ナラティブホーム理事長)

 

脳血管障害全般を指す脳卒中には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血がある。脳梗塞の中でも脳塞栓は血の固まり飛んできてそのまま動脈に詰まる、脳血栓はだんだんかすが溜まって詰まるものを指す。卒中とは急に発症するとの意味。


 

■脂質がプラークになり血栓に
脳梗塞は血管の詰まり方によって分類される。「アテローム血栓性脳梗塞」は動脈硬化が原因で起こる。コレステロールによる高脂血症だと動脈硬化が進みやすい。脂質はマクロファージにとり込まれて血管にこびりつき、脂質が硬化したプラークとして溜まってくる。プラークが大きくなり破れて出血すると血を固めようとして血小板が集まりかさぶたのようなものをつくる。それがまた破れてさらに血栓が大きくなる。これが繰り返されて血管が詰まってしまう。この現象は脳以外のところでも起きる。心臓でこれが発生すれば狭心症や心筋梗塞の原因となる。悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の値を下げなければいけない。
「ラクナ梗塞」は“小さな梗塞”。穿通枝のような1.5㎝以下の細い動脈で起こる。血液全体が汚れていれば狭いところで詰まる。多発性である。
「心原性脳塞栓」では心房細動や急性心筋梗塞、人工弁など問題によって心臓で大きな血栓ができ、それが流されて脳の太めの血管が詰まる。
プラークは血管の分かれ道のところに溜まりやすい。頸動脈で血栓ができ、それが飛んで閉塞を引き起こすことがある。15年ほど前から頸動脈エコー検査によって発見できるようになった。
「血行力学性」の脳梗塞は脳動脈下流の血液の届きにくい部分で起きる。普段なら症状が出ないほどの閉塞や狭窄があり、血圧低下や脱水、貧血、低酸素症などによって虚血・梗塞に陥ってしまう。
 

 

■TIAは脳梗塞の前兆
「TIA(一過性脳虚血発作)」では血栓が脳血管に詰まるが、短時間で自然に溶けて血流が再開する。以下のような症状が起こり、2~30分でもとに戻るが、脳梗塞の前兆であり放っておくと危ない。
▽片腕の力が“だらん”と抜けた
▽目の半分が“ぱっ”と見えなくなった
▽舌がもつれた
▽歩きづらく、片側に倒れそうになった
▽顔がゆがんで、口元がしびれた
TIAを放っておくと3カ月以内に4~20%の人が脳梗塞を引き起こし、その半数は48時間以内であるといわれている。70、80歳代だと上記の症状はTIAでなくても起きるが、その疑いはある。受診した場合、CTでは分からないがMRIなら原因を発見できるかもしれない。
血液を固まりづらくして脳梗塞を予防する代表的な薬に「ワウファリン」がある。太い血管にかすが溜まらないようにする。処方によってどれぐらい血が固まりづらくなっているのか検査をしながら使用する。ビタミンKを抑制することで効力を発揮しているので、納豆や青ジソなどビタミンKを多く含むものを食べるのは逆効果になる。
細くて血流が速い血管に血小板が詰まらないようにするには「バイアスピリン」が使用される。解熱・鎮痛剤のアスピリンを少量使うものだ。

 

■出血の場所と程度で症状はさまざま

zaitaku121210_02

「くも膜下出血」は脳の軟膜とくも膜との間に出血する。今までに体験したことのないような激しい頭痛に突然おそわれ、意識がなくなる。脳出血に痛みが伴わないのと対照的だ。日本人の発症者の8、9割は脳動脈瘤と呼ばれる動脈のこぶが破けて出血している。
くも膜下腔に流れる髄液に血が混じるため、以前は脊髄から髄液を採取して判定していたこともある。髄液の循環がだめになり、ほとんどの患者が水頭症になる。くも膜下出血から血管委縮が起こり、脳梗塞になることも多くて治療が難しい。
脳出血によって脳のどこがやられたかによって、異なる神経症状が出る。被殻なら運動、視床なら感覚に障害がでる。小脳ならふらつき、目まい、吐き気などが起こる。脳神経が集中している脳幹近くで出血すると助からない。
脳卒中は症状に左右の差がでるのも特徴だ。左脳にダメージを受けると右半身にまひがでる。言葉も左脳が担っているので障害がでる。脳卒中によって脳が右も左もやられることはないので、両手、両足のまひは異なる原因が考えられる。脳のどこが、どの程度やられたかによってさまざまな症状が起こるわけだ。

 

 脳卒中の約7割は脳梗塞だ。アテローム血栓性梗塞18.2%、アテローム血栓性塞栓4.2%、ラクナ梗塞22%、心原性梗塞20.8%、その他脳梗塞6.3%、TIA6.9%、高血圧性脳出血12.8%、その他脳出血2.7%、くも膜下出血6.3%(2001年)。
一時、MRIによる脳ドックが流行ったことがあったが今は下火になった。理由は危ない箇所が見つかった時に手術をすべきかどうか悩むからだ。手術にもリスクがあるので。

 

 最後に神経難病であるパーキンソン病の4つの徴候を挙げる。手足のふるえ(振戦)/手足のこわばり(固縮)/動作が緩慢(寡動、無動)/転びやすくなる(姿勢反射障害)。前屈で腕を振れずちょこちょこ歩く人は可能性がある。薬の投与によって、パーキンソン病なのか、うつなのか、認知症なのか分からない患者は少なくない。早期発見ができれば、薬によって症状をコントロールすることは可能だ。